その5「10分たったの1000円。 ~激安カットが儲かるヒミツ~」の巻
NPOあつぎみらい21のメールマガジン「メルマガ起業セミナー」に寄稿しました。
専門用語を使わないマーケティングのハナシ。
その5「10分たったの1000円」の巻
▼その5「10分たったの1000円。 ~激安カットが儲かるヒミツ~」の巻
創業の相談を受けていると、競合他社との違いの一番目に「安さ」を挙げる人が実に多いのですが、みなさんの創業プランはいかがでしょうか?
たしかに消費者は「安さ」に惹かれる事は間違いないでしょう。しかし、誰もが認める高級ブランド品が安い場合は「ニセモノ」か「ワケアリ」ではないかと、疑いますよね? 本当に良いもので、価格に見合った価値さえあれば値下げをする必要はないのです。
売れないからと安易に値下げする事の危うさを、当コラムの第2回でお話しましたが、今回はその逆に「安さ」で勝負している企業の利益の源泉に迫りたいと思います。皆さんは、10分1000円の床屋さん、QBハウスをご存じですか?
マスコミでもかなり取り上げられて知名度も高く、このコラムを読んでいる男性諸氏の多くが利用したのではないでしょうか。
さて、QBハウスのホームページをみると、次の5箇条が掲げられています。
1.低価格(ロープライス)
2.短時間(スピード)
3.高利便性(コンビニエンス)
4.ヘアカットのみのサービス(シンプル)
5.予約なし(フリー)
みなさんは、これらの項目からQBハウスが打ち出す、精密な5段構えの戦略を読み取り、利益を生み出すカラクリを見つける事ができましたか?
おそらく「ヘアカットのみのサービス」で、パーマや水回りなどの不要な設備が無くて済む事、「予約なし」で店員がカットに集中できるというメリットは客観的に理解できると思います。
確かに出店の初期費用を抑えると、毎月の減価償却費が下がり、利益が出やすい体質になるのですが、それらは4~5番目。つまり利益の源泉の順番も同様とみて良いでしょう。
この5段構えの戦略を解説すると次の通りになります。
1.まず、顧客に圧倒的なイメージを与える1000円に価格を設定する。
2.次に、売上を落とさない為の顧客回転率を設定する。
ここでピンと来た人は、商売のセンス有りです。このビジネスモデルが生み出す最大の利益の源泉は「低価格」とそれを支える「短時間」なのです。
男性読者のみなさんが良く知る昔ながらの床屋さんは、髪の毛をカットして、シャンプーして、ヒゲを剃って、整髪すると40分から1時間近くかかり、1回の代金が4000円くらい掛りますよね。
小売業やサービス業の売り上げの基本構造は「客単価×客数」です。QBハウスは10分1000円のサービスなので、理論上の客単価が既存の床屋の1/4と少ないですが、客数が実に6倍です。つまり1時間あたりの売上効率が1.5倍も高いのです。
さらに、この売上効率を実現する為の仕掛けが、3~5の戦略です。
3.駅ナカに出展する事で、ほんの少しの時間でも有効に使いたいサラリーマンの
「高利便性」を図り顧客ターゲットを絞り込みます。
4.絞り込んだサラリーマンが必要とする「時間」を提供するために、「ヘアカッ
ト」以外のサービスをなくし、パーマや水回り設備の初期費用と高度な理容技
術が不要になる事で、理容師の人件費まで安価に抑える事が出来ます。
5.ここまで徹底すれば、顧客はひっきりなしに来店するので、当然「予約」不要
です。さらに店舗の外に待ち時間を知らせる信号機の様なランプを設置し客待
ちのスペースすら削減して家賃コストを削減します。
時間当たりの売上効率が高く、コストも割安な為、価格競争に巻き込まれた理髪店は、QBハウスを真似て1000円にしても、顧客の回転率で赤字となり、中途半端な値下げになると、消費者から相手にされないという結果になるのです。
つまり「安さ」を武器にする場合は「仕入れ」や「低利益率」ではなく、それを実現する徹底した「仕組み」が重要なのです。
QBハウスは創業当初から海外進出を考え、このようなビジネスモデルを構築したと聞きます。恐らく彼らから見ると、理髪店は最初から競争相手ではなかったのでは? と思わざるを得ません。
さて、「安売り」を武器にする場合のポイントは、取引先や自社の利益を犠牲にすることなく、儲けの「仕組み」を創るということが理解できたでしょうか。
また面白いビジネス視点を見つけたら配信します。次回をお楽しみに!
<参考資料>
その2「提供価格は安易に変えない。」の巻
http://www.atsugimirai21.org/mailmag/10-09-25.txt
QBハウス 会社案内
http://www.qbhouse.co.jp/company/