アンケート調査に見る起業家の気持ち Vol.3

アンケート調査に見る起業家の気持ち(第3回) 
NPOあつぎみらい21のメールマガジン「メルマガ起業セミナー」に寄稿しました。

伊豫田 中小企業診断士事務所が寄稿したビジネスコラム


アンケート調査に見る起業家の気持ち
(第3回)


 

▼起業した人のふところ具合はどの程度?

 こんにちは、NPOあつぎみらい21の伊豫田です。みなさんの思い描くビジネスは、どの様な収入をもたらしますか? 今回は「起業家のスタートアップ活動に関する調査研究」から、収入のアンケート結果をもとに、解説を進めていきます。
 はたして、みなさんの想像通りの結果になるでしょうか?

 

▼今回の統計結果

「就業形態」
  1.個人 34.9%
  2.法人 58.9%
  3.その他 6.2%

「開始した事業からの収入」
  1.100万円未満  16.5%
  2.200万円未満  13.3%
  3.500万円未満  34.4%
  4.800万円未満  19.0%
  5.1,000万円未満  6.2%
  6.それ以上    6.8%

「開始した事業以外の収入」
  1.投資による収入 14.8%    
  2.パート等の給与 12.4%
  3.会社給与     8.1%
  4.家賃収入     5.8%
  5.会社役員報酬   4.8%
  6.派遣業務給与   3.0%
  7.その他      5.4%
  8.副収入なし   55.9%

 

▼個人か法人か? (法人が58.9%)

 統計の上では法人が勝っていますが、これは法人が良いか悪いかではなく、自分のビジネスはどちらが有利か?で選択すべきです。

 多くの解説書で会計や税制面でのメリット・デメリットが強調されますが、事業の収益モデルや組織効率に比べるとその効果はそれほど大きくありません。スモールビジネスの場合で対外信用を気にしない場合や、サイドビジネスレベル程度の場合は法人化するまでもありません。
 青色申告なら65万円の所得控除と引き換えに複式簿記の義務化が、法人化をすると相当の会計帳簿の作成や決算公告などの費用が発生します。あなたのビジネスにあった企業体系を考えて判断しましょう。

 

▼収入に過大な期待は禁物。(事業収入は200~500万円が34.4%で最多)

 それにしても、1,000万円以上が合わせて13%を占めていますが、初年度からそんなに稼ぐビジネスって一体どの様なものなのでしょうね?
 考えられるのは、たとえば生損保会社の独立制度を利用した代理店などは、ある程度の顧客を作れないと独立できないので、初年度から1,000万円を取ることも可能でしょうが、3~5年は保険会社の企業内で集客をしているので、実質のところ4~6年目扱いと見るべきでしょう。
 あとは、ITビジネスや営業職に多いスピンアウト型の独立です。独立元から顧客を持って行き新しい事は一切なく、そのままの形態で起業するタイプです。

 所得帯で一番多いのは200~500万円です。これは起業するとこのくらい稼げると考えるのではなく、「500万円くらい稼げる状態になったら独立する」と考えるべきです。決して無理な起業をするのは避けましょう。

 

▼兵法三十六計「逃げるを上と為す」(副収入なしが55.9%で過半数)

 過半数が副収入なしで起業をしています。確かに起業体力の無い間は経営資源の選択と集中が必要と、解説書や専門家は説きます。

 しかしこれらは、事業計画の裏付けがきちんと取れているからこそ言える事なので、この統計を見て「過半数が起業一本でスタートしているから大丈夫!」などと思い込むのは大変危険です。
 起業一本でスタート場合は、前述の通りすでに既存ビジネスがあり、スピンアウトする場合や十分な資金確保が得られていると考えられるからです。

 第1回の講座でも触れましたが、背水の陣は安易に使うものではなく、万全を期した上で、やらざるを得ない状況に追い込む事です。読者のみなさんはくれぐれもバクチの様な起業は謹んで下さい。

 いにしえの兵法書「三十六計」の掉尾を飾る戦術に、「走為上(=逃げるを上となす。)」という計略があります。これは体制不利になった時は、ひたすらに戦いを避け消耗を最小限にとどめ再起を促すという意味です。
 日本人の伝統にある「玉砕」は戦時、精神的な美に昇華されましたが、現実の戦いでは最後に生き残った者が勝者です。これはビジネスも同様です。

 さて、今回は起業後の収入にスポットを当てて解説をしました。みなさんの思い描いている姿と一致していましたか? この解説が起業の際の資金的な目安になれば幸いです。消費者金融のCMコピーではありませんが、「起業は無理なく計画的に」と言ったところでしょうか。

それでは、また次回をお楽しみに!

 

▼今回の参考文献

1.財団法人 中小企業総合研究機構
  起業家のスタートアップ活動に関する調査研究 第2章
  http://www.jsbri.or.jp/new-hp/work/research/pdf/startup/chapter2.pdf