専門用語を使わないマーケティングのハナシ。Vol.8

その8「ウイスキーが、お好きでしょ。」の巻 
NPOあつぎみらい21のメールマガジン「メルマガ起業セミナー」に寄稿しました。

伊豫田 中小企業診断士事務所が寄稿したビジネスコラム


専門用語を使わないマーケティングのハナシ。
その8「ウイスキーが、お好きでしょ。」の巻


 

 サントリーの山崎といえば、お酒を飲めない良い子を除いて、みなさんご存知、高級ブランドに君臨する国産ウイスキーですね。お気づきとは思いますが、最近やたらと安い山崎がリカーショップのチラシを賑わすようになりました。
 よくよく見れば「新山崎」。いったい何事が起こったのかと気にして見れば、そこには面白いマーケティングのネタが・・・

 ウイスキーは熟成の年度で飛躍的に価格が高くなる商品で、限定販売された50年モノの山崎はなんと1本100万円(!)・・・それでも発売&即完売といった超人気商品なのです。

 なぜ、その山崎がわざわざ新山崎なるものを出したのでしょうか。
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 サントリー酒類(株)は、シングルモルトウイスキーブランド「山崎」「白州」
の新ラインナップ「山崎」「白州」を5月29日(火)から全国で新発売します。

 今回、ウイスキーファンのさらなる拡大に向け、ハイボールをきっかけにウイス
キーに興味をもたれた方に対しプレミアムウイスキーにも親しんでいただくため、
当社のフラッグシップブランド「山崎」「白州」から、新たなラインナップを発売
するものです。
              (サントリーのプレスリリースから引用、以下略)
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 奇しくもいまは何十年ぶりに訪れたウイスキーブームの真っただ中。高度経済成長期に流行した同社のトリスや角瓶をソーダ割りにしたハイボールが、再び世に広がっています。
 ハイボールの口に広がる爽快感はどんな料理にも相性が良い為、古き時代を懐かしむ団塊の世代だけでなく、若者にも受けいれられ、あれよあれよという間に、最近の不況にあえぐ居酒屋の人気商品に。

 恐らく競合他社からもハイボールのラインナップを揃えているこの時期に、サントリーは客単価の向上を狙うべく、ブームに乗った上位モデルの担ぎ出しに山崎が選ばれたものと思われます。

 また、ウイスキーは少なくとも8年程度の熟成期間がかかる商品ですから、ブームが到来したからといって急に生産量を増やそうとしても調整がききません。そのため前述した角瓶も一時大変な品薄になったため、別ブランドへの展開で需要に対応したという行動もその一因として挙げられるでしょう。

 一見、これらの状況を考えると正常進化型の商品提供と思われるでしょうが、実はブランド価値を確立した商品の「値下げ」が、ご法度なのです。

▼ブランドは「熱狂的ファン」がつくるもの。

 当の本人たちは、ブームに沸いた新たな顧客層を山崎ブランドに取りこもうと躍起になった行動だと考えているようですが、これまでブランドイメージを支えてきた根っからの「山崎ファン」達にすれば、

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    山崎のハイボールは邪道。まして居酒屋で飲むのはもってのほか。
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 と見えてしまい、渋谷の若者や新橋ガード下のサラリーマンが山崎を飲む姿に嫌悪感すら覚える事でしょう。せっかく長年にわたるウイスキー不振の苦節を共にした山崎ファンをないがしろにする行為は、ブランドの衰退を暗に示唆するものです。

 せっかくの高い付加価値をもつ商品が一般化してしまい、価格競争に巻き込まれる事があっては、企業そのものの収益力を奪ってしまうことになりかねません。さらに収益を支えた「熱狂的ファン」が離れてしまっては、ブランド消滅の危機に直面します。
 過去にもバブル期の高級車ブームでトヨタのクラウンや日産のセドリックが上位機種の発売とともにそのブランド価値を地に落とした例もあるからです。

 非上場で短期的な収益を株主から求められないサントリーにしては、珍しい意思決定だと思っています。もしかして、その裏には何か収益を生むカラクリが潜んでいるのかも。

 さて、売上が好調だからと言って、ブランド化されている商品を安易に担ぎ出すと、かえってブランドの求心力を落とす事になりかねないという事を理解できたでしょうか。限られた人たちにしか恩恵に預かれないからこそ価値なのです。

 極端なたとえ話ですが、成金となった途端に糟糠の妻を見捨て、愛人に溺れるバブル期の経営者みたいなものです。好調期こそ失敗のタネが芽生えやすいと言われていますが、今回の話はその典型となる兆しだと考えています。

                 ・・・国産ウイスキー市場の将来は如何に?

 皆さんのビジネスにおいても、収益の柱を拡販する為の値下げや下位ブランドへの名称に利用しない様にくれぐれも気を付けましょう。

 また、面白いビジネス視点を見つけたら配信します。お楽しみに!

<参考>
ニュースリリース 2011年限定発売「山崎50年」
http://www.suntory.co.jp/news/2011/11243.html

サントリートピックス 同社広報によるブログ
http://topics.blog.suntory.co.jp/004344.html